仙台高等裁判所 平成5年(ネ)198号 判決 1993年11月30日
控訴人
丙川(旧姓乙山)薫
右法定代理人親権者
丙川三郎
同
丙川花子
右訴訟代理人弁護士
安藤裕規
同
安藤ヨイ子
同
齋藤正俊
控訴人
乙山次郎
被控訴人
甲野太郎
右訴訟代理人弁護士
安部洋介
主文
原判決中控訴人らの間に親子関係が存在しないことを確認するとの部分を取り消す。
被控訴人の控訴人らの間に親子関係が存在しないことの確認を求める訴えを却下する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
控訴人丙川薫は、主文同旨の判決を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。
当事者双方の主張は、次のほかは原判決記載のとおりであり、証拠関係は記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これらを引用する。
(控訴人丙川薫)
原審の審理中である平成五年一月一九日、控訴人丙川薫について特別養子縁組の裁判が確定し、同控訴人の代理人が代理権を失ったのに、原判決にはこれを看過して訴訟を進行した違法がある。
また、控訴人丙川薫は、右裁判の確定により従前の親族関係をすべて失ったものであるから、被控訴人の本件訴えは確認の利益を失った。
(被控訴人)
一 親子関係不存在確認訴訟は、戸籍上成立している親子関係は当初から当然に無効であって、何人も何時でもこれを訴えの形式によらず主張できるものであるから、次の二及び三のような事情がある場合は、特別養子縁組成立前の親子関係不存在という過去の法律関係の不存在を確認する利益がある。
二 民法八一七条の九、七三四条、七三五条は、特別養子縁組成立後においても婚姻障害が残存することを認めているから、この点が問題になる限りにおいて、特別養子縁組成立前の親子関係は消滅せずに存在しており、親子関係不存在確認訴訟の提起を認めざるを得ない。被控訴人と控訴人丙川薫との間においても婚姻障害の問題は残されており、本件確認の利益はなお存在する。
三 民法八一七条の一〇第一項は、特別養子縁組成立後、養子の利益のため特に必要があり、実父母が相当の監護をすることができるときは、実父母の請求により特別養子縁組の当事者を離縁させることができる旨定めているが、この規定が専ら養子の監護、利益のために設けられた趣旨からすれば、実父母とは戸籍上の父母をいうのではなく、自然血縁上の真実の父母を意味するものと解すべきである。したがって、民法は特別養子縁組成立後の親子関係不存在確認訴訟を予想し容認しているものと考えられる。被控訴人は、控訴人丙川薫について特別養子縁組の裁判が確定しているとしても、同条に基づき離縁を請求する考えであり、この限りにおいて本件確認の利益はなお存在する。
理由
当裁判所は、被控訴人の控訴人らの間に親子関係が存在しないことの確認を求める訴えは確認の利益を欠き不適法であると判断するが、その理由は次のとおりである。
一 乙一号証によれば、平成五年一月一九日、控訴人丙川薫について、丙川三郎、丙川花子夫婦を養親とし控訴人丙川薫を養子とする特別養子縁組の裁判が確定したことが認められる。
そうすると、民法八一七条の九本文によって控訴人丙川薫と実方の父母との親族関係は終了しているところ、右規定は養父母を唯一の父母とすることによって養子の地位を明確にし、その健全な育成を図ることを目的とするものであり、その趣旨に鑑みると、生理上の父から認知をうけないまま特別養子となった子を、縁組後に右父が認知することは禁止されているというべきであるから、被控訴人が控訴人丙川薫の生理上の父であるとしても、もはや控訴人丙川薫を認知することはできないことになる。
二 被控訴人は、婚姻障害の問題は残されているから本件確認の利益は存在する旨主張するが、親子の関係において婚姻障害が問題となるのは法律上の親子関係についてであり、被控訴人が控訴人丙川薫を認知することができない以上、被控訴人の右主張は採用できない。
三 また、被控訴人は、民法八一七条の一〇第一項によって離縁の請求ができるから本件確認の利益は存在する旨主張するが、同項に定める「実父母」とは特別養子縁組の成立前に実親子関係を有した父母を意味し、特別養子縁組の成立前に認知をしていなかった父は同項に定める「実父母」ではないから、被控訴人は同項によって離縁の請求をすることはできず、また、離縁の請求をするためであっても、離縁前に控訴人丙川薫を認知することもできないから、被控訴人の右主張も採用できない。
四 以上によれば、被控訴人の控訴人らに対する本件訴えは確認の利益を欠くことになり不適法であるから却下すべきものであるところ、これと結論を異にする原判決を取り消し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官石川良雄 裁判官山口忍 裁判官荒井純哉)